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【Gaussian】Gaussian 16実行ファイルの機能解説
最終更新:2025-04-22 12:50:36
はじめに
Gaussian 16は複数の実行ファイル(リンク)から構成されており、これらが連携することで量子化学計算を実行する。本記事では、各リンクの基本的な機能と役割について解説する。リンク(L+数字)として知られるこれらのプログラムは、計算の種類に応じて必要なものが順次実行される。
実行管理系リンク
- L0:プログラムの初期化、オーバーレイの操作を行う
- L1:ルートセクションの処理、実行するためのリンクの一覧の構築、スクラッチファイルの初期化を担当
- L101:タイトルと分子指定セクションを読み込む
- L9999:計算と出力の終了処理を行う
構造最適化関連リンク
- L102:Fletcher-Powell アルゴリズムによる構造最適化を実行
- L103:Berny アルゴリズムによる極小値やTS、STQN遷移状態探索を行う
- L105:Murtaugh-Sarent アルゴリズムによる最適化を実行
- L107:LST (Linear-synchronous-transit) 法による遷移状態探索を担当
- L109:Newton-Raphson アルゴリズムによる最適化を実行
- L113:解析的勾配を用いたEFアルゴリズムによる構造最適化を行う
- L114:エネルギーのみを利用するEFアルゴリズムによる数値的な構造最適化を担当
- L115:GS3アルゴリズムによる反応経路探索を実行
- L123:HPCアルゴリズム(やその他)を用いた反応経路探索を行う
振動解析・物性計算関連リンク
- L106:分極率および超分極率を得るための力および双極子の数値微分を計算
- L110:振動数を得るためのエネルギーに対する二次数値微分を実行
- L111:分極率および超分極率を計算するためのエネルギーに対する二度の数値微分を担当
- L112:自己無撞着なビリアルスケーリング法(SCVC法)を実行
- L716:構造最適化と振動数についての情報を処理
溶媒効果関連リンク
- L116:数値的な自己無撞着反応場(SCRF)計算を実行
- L117:IPCM溶媒和計算を担当
- L124:PCMおよびexternal-iteration PCMを用いたONIOM計算を実行
分子動力学関連リンク
- L118:BOMD(Born-Oppenheimer Molecular Dynamics)計算を実行
- L121:ADMP(Atom-centered Density Matrix Propagation)計算を担当
複合計算関連リンク
- L120:ONIOM計算の操作を行う
- L122:Counterpoise計算を実行
- L904:Peterssonらによる完全基底関数(CBS)外挿法を計算
分子構造・基底関数関連リンク
- L202:座標系の再設定、対称性の計算、変数の確認を行う
- L301:基底関数情報の生成を担当
積分計算関連リンク
- L302:重なり積分、運動および位置の積分の計算を実行
- L303:多極子積分の計算を行う
- L308:双極子の速度とRx∇積分の計算を担当
- L310:原始型spdf タイプの2電子積分を計算
- L311:spタイプの2電子積分を計算
- L314:spdfタイプの2電子積分を計算
- L316:2電子積分の出力を行う
- L319:近似のスピン軌道カップリングについての1電子積分を計算
- L801:2電子積分変換の初期化を行う
- L802:積分変換(N³ in-coreアルゴリズム)を実行
- L804:積分変換を担当
SCF計算関連リンク
- L401:初期MO係数(guess)の生成を行う
- L402:半経験的(Semi-empirical)分子軌道計算や分子力学(MM)計算を実行
- L405:MCSCF計算の初期化を担当
- L502:SCF方程式の繰り返し計算(conventional UHF、ROHF、すべてのDirect法、SCRF)を実行
- L503:ダイレクト最小化を用いたSCF方程式の繰り返し計算を行う
- L506:ROHFやGVB-PP計算を実行
- L508:二次的な収束SCFプログラムを担当
- L510:MC-SCF計算を実行
ポスト-SCF計算関連リンク
- L903:(旧)in-core MP2計算を実行
- L905:複合的なMP2計算を担当
- L906:セミダイレクトMP2計算を実行
- L913:ポストSCFエネルギーとその勾配項の計算を行う
- L915:五次のオーダーの手法(MP5、QCISD(TQ)、BD(TQ))を計算
- L916:(旧)MP4とCCSD計算を実行
励起状態計算関連リンク
- L914:CIS、RPA、ZIndo励起状態とSCF安定性を計算
- L923:SAC-CI計算を実行
- L925:励起状態の電子移動(EET)モデルを計算
波動関数解析関連リンク
- L601:ポピュレーション解析および関連する解析(多極子モーメントを含む)を実行
- L602:1電子プロパティ(ポテンシャル、電場、電場の勾配)を計算
- L604:グリッド点上のMOや電子密度の見積もりを行う
- L607:NBO解析を実行
- L608:繰り返しでないDFTエネルギーを計算
- L609:Atoms in Moleculesプロパティを担当
- L902:Hatree-Fock波動関数の信頼性の判定を行う
微分関連リンク
- L701:1電子積分の一次または二次微分を計算
- L702:2電子積分の一次または二次微分(sp)を実行
- L703:2電子積分の一次または二次微分(spdf)を担当
- L811:積分導関数の形成、MP2の二次微分の寄与を計算
- L1101:1電子積分の導関数計算を行う
- L1102:双極子モーメントの積分および微分の計算を担当
- L1110:F(x)に対する2電子積分の微分の寄与を計算
- L1111:2粒子の密度行列およびポストSCFの微分を担当
- L1112:MP2の2次微分を計算
その他の特殊計算リンク
- L908:電子伝播(Electron Propagator)プログラムを実行
- L909:ADC(3) と関連する電子伝播モデルを計算
- L918:波動関数の最適化の再計算を行う
- L1002:CPHF方程式の繰り返し計算とNMRを含む様々なプロパティを計算
- L1003:CP-MCSCF方程式の繰り返し計算を担当
- L901:2電子積分の反対称化を行う
- L108:緩和させない(unrelaxed)ポテンシャルエネルギー曲面スキャンを実行
- L610:数値積分(積分コードのテスト)を担当
まとめ
Gaussian 16はこれらの多数の実行ファイル(リンク)が連携して動作するシステムである。各リンクは特定の計算タスクを担当しており、入力ファイルで指定された計算の種類に応じて必要なリンクが順次呼び出される。多くの場合、ユーザーがこれらのリンクを個別に意識する必要はないが、エラーの診断や計算過程の理解には各リンクの役割を知ることが役立つ。
参考サイト
【Gaussian】Gaussian 16実行ファイルの機能解説
https://ss0832.github.io/posts/20250422_gaussian16-executable-functions/ Related Posts
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