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時間依存密度汎関数法の厳密な基礎:Runge-Gross定理の詳細証明と作用汎関数の論理構造

last_modified: 2026-01-13

生成AIによる自動生成記事に関する免責事項: 本記事は、学術論文(Phys. Rev. Lett. 52, 997 (1984))の内容に基づき、大規模言語モデルによって作成された解説記事です。記述内容は原著論文の理論的提案および数理的証明に基づく解釈であり、正確な定義や厳密な導出については、必ず参考文献(原著)を参照してください。

目次#

  1. 序論:時間依存系における密度汎関数理論の確立
  2. Hohenberg-Kohn定理の限界とRunge-Grossの挑戦
  3. 定理1:密度とポテンシャルの一対一対応(詳細証明)
  4. 作用汎関数の導入と変分原理の再定義
  5. 時間依存Kohn-Sham形式の導出と交換相関項
  6. 理論的制約:v-表現可能性と初期状態依存性
  7. 既存手法との比較と数値計算上のスケーラビリティ
  8. 結論と今後の展望

1. 序論#

時間依存密度汎関数法(TDDFT)は、現代の計算化学において、分子の励起状態、光吸収スペクトル、強レーザー場中の電子ダイナミクスを記述するための最も強力な手法の一つである。しかし、その誕生以前、電子密度を基本変数とするアプローチは、基底状態を扱うHohenberg-Kohn(HK)理論に限定されていた。

1984年、E. RungeとE. K. U. Grossは、時間依存シュレーディンガー方程式に従う任意の多体系において、**「時間依存電子密度は外部ポテンシャルを唯一つに決定する」**ことを数学的に証明した。本稿では、この「Runge-Gross定理」の論理構造を詳細に紐解き、物理的な近似(断熱近似など)が導入される前の、厳密な理論的枠組みを解説する。


2. 理論的背景:HK定理の限界とRunge-Grossの挑戦#

2.1 エネルギー最小化原理の不在#

基底状態DFTの支柱であるHK定理の証明は、Rayleigh-Ritzの変分原理、すなわち「正しい基底状態密度はエネルギーを最小化する」という事実に依存していた。しかし、時間依存系(H^(t)\hat{H}(t))においては、系は常に基底状態にあるわけではなく、エネルギーは保存量ですらない。

2.2 作用積分 AA の性質#

時間依存系における運動状態を特徴付けるのはエネルギーではなく、ハミルトニアンと時間微分演算子の差から構成される**作用積分(Action Integral)**である。 A=t0t1dtΨ(t)itH^(t)Ψ(t)A = \int_{t_0}^{t_1} dt \langle \Psi(t) | i \frac{\partial}{\partial t} - \hat{H}(t) | \Psi(t) \rangle Runge-Grossの課題は、この作用積分の停留条件(変分がゼロになる点)のみを用いて、密度とポテンシャルの可逆的な写像を証明することにあった。


3. 定理1:密度とポテンシャルの一一対応(詳細証明)#

RungeとGrossは、2つの異なる外部ポテンシャル v(r,t)v(\vec{r},t)v(r,t)v'(\vec{r},t) が、同じ初期状態 Φ0\Phi_0 から出発して異なる電子密度 n(r,t)n(\vec{r},t) を生み出すことを示した。

3.1 Taylor展開の仮定(原著 p.997)#

証明の前提として、ポテンシャル vv が初期時刻 t0t_0 において時間に関してTaylor展開可能であることを仮定する。 v(r,t)=k=01k!vk(r)(tt0)kv(\vec{r},t) = \sum_{k=0}^{\infty} \frac{1}{k!} v_k(\vec{r}) (t-t_0)^k 2つのポテンシャルが異なるとは、ある最小の次数 k0k \ge 0 において、vk(r)vk(r)const.v_k(\vec{r}) - v'_k(\vec{r}) \neq const. となることである。

3.2 電流密度の分岐(ハイゼンベルク方程式)#

まず、電流密度演算子 j^(r)\hat{j}(\vec{r}) の期待値の時間発展に着目する。運動方程式より、 tj^(r,t)=i[j^(r,t),H^(t)]\frac{\partial}{\partial t} \langle \hat{j}(\vec{r},t) \rangle = -i \langle [\hat{j}(\vec{r},t), \hat{H}(t)] \rangle これを k+1k+1 回繰り返すことで、時刻 t0t_0 における電流密度の差異が導出される。 k+1tk+1[j(r,t)j(r,t)]t=t0=n0(r)[vk(r)vk(r)]\frac{\partial^{k+1}}{\partial t^{k+1}} [\vec{j}(\vec{r},t) - \vec{j}'(\vec{r},t)]_{t=t_0} = -n_0(\vec{r}) \nabla [v_k(\vec{r}) - v'_k(\vec{r})] ここで n0(r)n_0(\vec{r}) は初期密度である。右辺がゼロでない限り、電流密度は t0t_0 の直後で異なる値をとる。

3.3 電子密度の分岐(連続の式)#

次に、電荷の保存則を示す「連続の式」を用いる。 tn(r,t)=j(r,t)\frac{\partial}{\partial t} n(\vec{r},t) = -\nabla \cdot \vec{j}(\vec{r},t) この式をさらに時間微分し、上記の電流密度の差を代入すると、密度の k+2k+2 次の微分において差異が現れる。 k+2tk+2[n(r,t)n(r,t)]t=t0=[n0(r)(vk(r)vk(r))]\frac{\partial^{k+2}}{\partial t^{k+2}} [n(\vec{r},t) - n'(\vec{r},t)]_{t=t_0} = \nabla \cdot [n_0(\vec{r}) \nabla (v_k(\vec{r}) - v'_k(\vec{r}))] 発散定理を用いた数学的議論により、右辺が恒等的にゼロになることはあり得ない(ポテンシャルが定数差でない限り)。ゆえに、異なるポテンシャルは必ず異なる密度軌跡を描くことが証明された。


4. 作用汎関数の導入と変分原理の再定義#

一対一対応が証明されたことで、あらゆる物理量(波動関数を含む)は密度の汎関数として記述可能となる。これに基づき、作用積分 AA も密度 nn の汎関数 A[n]A[n] となる。

4.1 普遍的汎関数 B[n]B[n]#

作用汎関数は以下のように分解される。 A[n]=B[n]t0t1dtd3rn(r,t)v(r,t)A[n] = B[n] - \int_{t_0}^{t_1} dt \int d^3r \, n(\vec{r},t) v(\vec{r},t) ここで B[n]B[n] は以下の項を含む。 B[n]=t0t1dtΨ[n](t)itT^U^Ψ[n](t)B[n] = \int_{t_0}^{t_1} dt \langle \Psi[n](t) | i \frac{\partial}{\partial t} - \hat{T} - \hat{U} | \Psi[n](t) \rangle T^\hat{T} は運動エネルギー、U^\hat{U} は電子間相互作用である。重要なのは、B[n]B[n] の形式が外部ポテンシャル vv に依存せず、電子数のみによって決まる普遍的な形式を持つ点である。

4.2 停留条件(Euler-Lagrange方程式)#

正しい密度 n(r,t)n(\vec{r},t) は、汎関数微分 δA[n]δn(r,t)=0\frac{\delta A[n]}{\delta n(\vec{r},t)} = 0 を満たす。これにより、多電子系の複雑な動力学が、密度に関する一変数の停留問題へと射影される。


5. 時間依存Kohn-Sham形式の導出と交換相関項#

実用的な計算を可能にするため、RungeとGrossは、相互作用のない仮想系(Kohn-Sham系)を用いて実系の密度を再現する手法を提案した。

5.1 TDKS方程式#

非相互作用系の作用 S0[n]S_0[n] を定義し、実系の作用 A[n]A[n] との差を交換相関作用 Axc[n]A_{xc}[n] と置く。 Axc[n]=B[n]S0[n]J[n]A_{xc}[n] = B[n] - S_0[n] - J[n]J[n]J[n] は古典的なハミルトニアン/ハートリー項に対応する作用)

この変分から導かれる一粒子の方程式が時間依存Kohn-Sham方程式である。 itϕj(r,t)=[122+veff(r,t;n)]ϕj(r,t)i \frac{\partial}{\partial t} \phi_j(\vec{r},t) = \left[ -\frac{1}{2}\nabla^2 + v_{eff}(\vec{r},t; n) \right] \phi_j(\vec{r},t)

5.2 有効ポテンシャル veffv_{eff} の内訳#

veff(r,t)=v(r,t)+n(r,t)rrd3r+vxc(r,t;n)v_{eff}(\vec{r},t) = v(\vec{r},t) + \int \frac{n(\vec{r}',t)}{|\vec{r}-\vec{r}'|} d^3r' + v_{xc}(\vec{r},t; n) ここで vxc=δAxc/δnv_{xc} = \delta A_{xc} / \delta n は、量子力学的な多体効果(交換・相関)および時間発展における非断熱的な効果をすべて包含する。


6. 理論的制約:v-表現可能性と初期状態依存性#

6.1 v-表現可能性 (v-representability)#

Runge-Gross定理における「普遍性」は、v-表現可能な密度(ある外部ポテンシャル vv から生成され得る密度)の集合に対してのみ厳密に成り立つ。任意の数学的な関数 n(r,t)n(\vec{r},t) が必ずしも物理的な vv に対応するわけではないため、汎関数の定義域には数学的な注意が必要である。(注:RG定理は相互作用系についての密度⇄ポテンシャル写像を議論するが、TDKS 法で“その密度を非相互作用系で再現できるか”は別問題であり、一般に保証されない。)

6.2 初期状態依存性 (Initial State Dependence)#

基底状態DFTとは異なり、TDDFTの写像 vnv \to n は初期波動関数 Ψ(t0)\Psi(t_0) に依存する。つまり、同じ密度発展であっても、出発点が異なれば異なるポテンシャル軌跡に対応する。実用計算では通常、系が基底状態から始まると仮定してこの問題を回避する。

6.3 記憶効果と断熱近似#

  • 記憶効果 (Memory Effect): 原理上、vxcv_{xc} は過去の密度 n(t<t)n(t' < t) に依存する。
  • 断熱近似 (Adiabatic Approximation): 多くの実装では vxc(r,t)vxcstatic(n(t))v_{xc}(\vec{r},t) \approx v_{xc}^{static}(n(t)) と近似される。これは「電子密度は瞬時に外部場に追従する」という仮定であり、高次高調波発生などの強電場現象では限界がある。

7. 既存手法との比較と数値計算上のスケーラビリティ#

観点TD-HF / TD-CITDDFT (Runge-Gross)
基本変数多電子波動関数 Ψ\Psi電子密度 n(r,t)n(\vec{r},t)
計算複雑度指数関数的 / 高次 O(Nm)O(N^m)O(N3N4)O(N^3 \sim N^4) 程度
相関効果配置間相互作用等で明示AxcA_{xc} 汎関数に包含
適用規模数十電子程度数百〜数千電子以上

Runge-Gross定理は、TDDFTが単なる「近似手法」ではなく、原理的にはシュレーディンガー方程式と等価な「厳密な解」を与え得る理論であることを保証した。(原理的には等価になり得るが、実用上は近似に依存する手法である。)


8. 結論#

Runge-Gross定理(1984年)は、時間依存多体系の物理を「密度の言葉」で語るための憲法のような存在である。本定理により、以下の3点が確立された。

  1. ポテンシャルと密度の間の厳密な数学的リンク。
  2. 作用積分を通じた変分的な枠組みの再定義。
  3. Kohn-Sham形式による、実用的な一粒子計算への道。

現在、我々がGaussian、NWChem、VASP等のソフトで励起状態を計算できるのは、この定理が「密度さえ正しければ、背後にある物理はすべて再現できる」ことを保証してくれているからに他ならない。


参考文献#

  1. Runge, E., & Gross, E. K. U. (1984). Density-Functional Theory for Time-Dependent Systems. Phys. Rev. Lett. 52, 997.
  2. Gross, E. K. U., & Kohn, W. (198--- title: “時間依存密度汎関数法の厳密な基礎:Runge-Gross定理の詳細証明と作用汎関数の論理構造” published: 2026-01-13 tags: [Theoretical Chemistry, TDDFT, Runge-Gross Theorem, Quantum Dynamics, Electronic Structure Theory] category: Computational Chemistry description: “E. RungeとE. K. U. Grossが1984年に発表した『Density-Functional Theory for Time-Dependent Systems』の全容を詳細に解説。基底状態HK定理の限界をいかに打破したか、Taylor展開を用いたポテンシャルと密度の一対一対応の証明、および非相互作用系への射影(TDKS法)の妥当性を、理論化学の視点から厳密に論じる。” draft: false

last_modified: 2026-01-13

生成AIによる自動生成記事に関する免責事項: 本記事は、学術論文(Phys. Rev. Lett. 52, 997 (1984))の内容に基づき、大規模言語モデルによって作成された解説記事です。記述内容は原著論文の理論的提案および数理的証明に基づく解釈であり、正確な定義や厳密な導出については、必ず参考文献(原著)を参照してください。

目次#

  1. 序論:時間依存系における密度汎関数理論の確立
  2. Hohenberg-Kohn定理の限界とRunge-Grossの挑戦
  3. 定理1:密度とポテンシャルの一対一対応(詳細証明)
  4. 作用汎関数の導入と変分原理の再定義
  5. 時間依存Kohn-Sham形式の導出と交換相関項
  6. 理論的制約:v-表現可能性と初期状態依存性
  7. 既存手法との比較と数値計算上のスケーラビリティ
  8. 結論と今後の展望

1. 序論#

時間依存密度汎関数法(TDDFT)は、現代の計算化学において、分子の励起状態、光吸収スペクトル、強レーザー場中の電子ダイナミクスを記述するための最も強力な手法の一つである。しかし、その誕生以前、電子密度を基本変数とするアプローチは、基底状態を扱うHohenberg-Kohn(HK)理論に限定されていた。

1984年、E. RungeとE. K. U. Grossは、時間依存シュレーディンガー方程式に従う任意の多体系において、**「時間依存電子密度は外部ポテンシャルを唯一つに決定する」**ことを数学的に証明した。本稿では、この「Runge-Gross定理」の論理構造を詳細に紐解き、物理的な近似(断熱近似など)が導入される前の、厳密な理論的枠組みを解説する。


2. 理論的背景:HK定理の限界とRunge-Grossの挑戦#

2.1 エネルギー最小化原理の不在#

基底状態DFTの支柱であるHK定理の証明は、Rayleigh-Ritzの変分原理、すなわち「正しい基底状態密度はエネルギーを最小化する」という事実に依存していた。しかし、時間依存系(H^(t)\hat{H}(t))においては、系は常に基底状態にあるわけではなく、エネルギーは保存量ですらない。

2.2 作用積分 AA の性質#

時間依存系における運動状態を特徴付けるのはエネルギーではなく、ハミルトニアンと時間微分演算子の差から構成される**作用積分(Action Integral)**である。 A=t0t1dtΨ(t)itH^(t)Ψ(t)A = \int_{t_0}^{t_1} dt \langle \Psi(t) | i \frac{\partial}{\partial t} - \hat{H}(t) | \Psi(t) \rangle Runge-Grossの課題は、この作用積分の停留条件(変分がゼロになる点)のみを用いて、密度とポテンシャルの可逆的な写像を証明することにあった。


3. 定理1:密度とポテンシャルの一一対応(詳細証明)#

RungeとGrossは、2つの異なる外部ポテンシャル v(r,t)v(\vec{r},t)v(r,t)v'(\vec{r},t) が、同じ初期状態 Φ0\Phi_0 から出発して異なる電子密度 n(r,t)n(\vec{r},t) を生み出すことを示した。

3.1 Taylor展開の仮定(原著 p.997)#

証明の前提として、ポテンシャル vv が初期時刻 t0t_0 において時間に関してTaylor展開可能であることを仮定する。 v(r,t)=k=01k!vk(r)(tt0)kv(\vec{r},t) = \sum_{k=0}^{\infty} \frac{1}{k!} v_k(\vec{r}) (t-t_0)^k 2つのポテンシャルが異なるとは、ある最小の次数 k0k \ge 0 において、vk(r)vk(r)const.v_k(\vec{r}) - v'_k(\vec{r}) \neq const. となることである。

3.2 電流密度の分岐(ハイゼンベルク方程式)#

まず、電流密度演算子 j^(r)\hat{j}(\vec{r}) の期待値の時間発展に着目する。運動方程式より、 tj^(r,t)=i[j^(r,t),H^(t)]\frac{\partial}{\partial t} \langle \hat{j}(\vec{r},t) \rangle = -i \langle [\hat{j}(\vec{r},t), \hat{H}(t)] \rangle これを k+1k+1 回繰り返すことで、時刻 t0t_0 における電流密度の差異が導出される。 k+1tk+1[j(r,t)j(r,t)]t=t0=n0(r)[vk(r)vk(r)]\frac{\partial^{k+1}}{\partial t^{k+1}} [\vec{j}(\vec{r},t) - \vec{j}'(\vec{r},t)]_{t=t_0} = -n_0(\vec{r}) \nabla [v_k(\vec{r}) - v'_k(\vec{r})] ここで n0(r)n_0(\vec{r}) は初期密度である。右辺がゼロでない限り、電流密度は t0t_0 の直後で異なる値をとる。

3.3 電子密度の分岐(連続の式)#

次に、電荷の保存則を示す「連続の式」を用いる。 tn(r,t)=j(r,t)\frac{\partial}{\partial t} n(\vec{r},t) = -\nabla \cdot \vec{j}(\vec{r},t) この式をさらに時間微分し、上記の電流密度の差を代入すると、密度の k+2k+2 次の微分において差異が現れる。 k+2tk+2[n(r,t)n(r,t)]t=t0=[n0(r)(vk(r)vk(r))]\frac{\partial^{k+2}}{\partial t^{k+2}} [n(\vec{r},t) - n'(\vec{r},t)]_{t=t_0} = \nabla \cdot [n_0(\vec{r}) \nabla (v_k(\vec{r}) - v'_k(\vec{r}))] 発散定理を用いた数学的議論により、右辺が恒等的にゼロになることはあり得ない(ポテンシャルが定数差でない限り)。ゆえに、異なるポテンシャルは必ず異なる密度軌跡を描くことが証明された。


4. 作用汎関数の導入と変分原理の再定義#

一対一対応が証明されたことで、あらゆる物理量(波動関数を含む)は密度の汎関数として記述可能となる。これに基づき、作用積分 AA も密度 nn の汎関数 A[n]A[n] となる。

4.1 普遍的汎関数 B[n]B[n]#

作用汎関数は以下のように分解される。 A[n]=B[n]t0t1dtd3rn(r,t)v(r,t)A[n] = B[n] - \int_{t_0}^{t_1} dt \int d^3r \, n(\vec{r},t) v(\vec{r},t) ここで B[n]B[n] は以下の項を含む。 B[n]=t0t1dtΨ[n](t)itT^U^Ψ[n](t)B[n] = \int_{t_0}^{t_1} dt \langle \Psi[n](t) | i \frac{\partial}{\partial t} - \hat{T} - \hat{U} | \Psi[n](t) \rangle T^\hat{T} は運動エネルギー、U^\hat{U} は電子間相互作用である。重要なのは、B[n]B[n] の形式が外部ポテンシャル vv に依存せず、電子数のみによって決まる普遍的な形式を持つ点である。

4.2 停留条件(Euler-Lagrange方程式)#

正しい密度 n(r,t)n(\vec{r},t) は、汎関数微分 δA[n]δn(r,t)=0\frac{\delta A[n]}{\delta n(\vec{r},t)} = 0 を満たす。これにより、多電子系の複雑な動力学が、密度に関する一変数の停留問題へと射影される。


5. 時間依存Kohn-Sham形式の導出と交換相関項#

実用的な計算を可能にするため、RungeとGrossは、相互作用のない仮想系(Kohn-Sham系)を用いて実系の密度を再現する手法を提案した。

5.1 TDKS方程式#

非相互作用系の作用 S0[n]S_0[n] を定義し、実系の作用 A[n]A[n] との差を交換相関作用 Axc[n]A_{xc}[n] と置く。 Axc[n]=B[n]S0[n]J[n]A_{xc}[n] = B[n] - S_0[n] - J[n]J[n]J[n] は古典的なハミルトニアン/ハートリー項に対応する作用)

この変分から導かれる一粒子の方程式が時間依存Kohn-Sham方程式である。 itϕj(r,t)=[122+veff(r,t;n)]ϕj(r,t)i \frac{\partial}{\partial t} \phi_j(\vec{r},t) = \left[ -\frac{1}{2}\nabla^2 + v_{eff}(\vec{r},t; n) \right] \phi_j(\vec{r},t)

5.2 有効ポテンシャル veffv_{eff} の内訳#

veff(r,t)=v(r,t)+n(r,t)rrd3r+vxc(r,t;n)v_{eff}(\vec{r},t) = v(\vec{r},t) + \int \frac{n(\vec{r}',t)}{|\vec{r}-\vec{r}'|} d^3r' + v_{xc}(\vec{r},t; n) ここで vxc=δAxc/δnv_{xc} = \delta A_{xc} / \delta n は、量子力学的な多体効果(交換・相関)および時間発展における非断熱的な効果をすべて包含する。


6. 理論的制約:v-表現可能性と初期状態依存性#

6.1 v-表現可能性 (v-representability)#

Runge-Gross定理における「普遍性」は、v-表現可能な密度(ある外部ポテンシャル vv から生成され得る密度)の集合に対してのみ厳密に成り立つ。任意の数学的な関数 n(r,t)n(\vec{r},t) が必ずしも物理的な vv に対応するわけではないため、汎関数の定義域には数学的な注意が必要である。

6.2 初期状態依存性 (Initial State Dependence)#

基底状態DFTとは異なり、TDDFTの写像 vnv \to n は初期波動関数 Ψ(t0)\Psi(t_0) に依存する。つまり、同じ密度発展であっても、出発点が異なれば異なるポテンシャル軌跡に対応する。実用計算では通常、系が基底状態から始まると仮定してこの問題を回避する。

6.3 記憶効果と断熱近似#

  • 記憶効果 (Memory Effect): 原理上、vxcv_{xc} は過去の密度 n(t<t)n(t' < t) に依存する。
  • 断熱近似 (Adiabatic Approximation): 多くの実装では vxc(r,t)vxcstatic(n(t))v_{xc}(\vec{r},t) \approx v_{xc}^{static}(n(t)) と近似される。これは「電子密度は瞬時に外部場に追従する」という仮定であり、高次高調波発生などの強電場現象では限界がある。

7. 既存手法との比較と数値計算上のスケーラビリティ#

観点TD-HF / TD-CITDDFT (Runge-Gross)
基本変数多電子波動関数 Ψ\Psi電子密度 n(r,t)n(\vec{r},t)
計算複雑度指数関数的 / 高次 O(Nm)O(N^m)O(N3N4)O(N^3 \sim N^4) 程度
相関効果配置間相互作用等で明示AxcA_{xc} 汎関数に包含
適用規模数十電子程度数百〜数千電子以上

Runge-Gross定理は、TDDFTが単なる「近似手法」ではなく、原理的にはシュレーディンガー方程式と等価な「厳密な解」を与え得る理論であることを保証した点で、波動関数法に対する強力なカウンターパートとなっている。


8. 結論#

Runge-Gross定理(1984年)は、時間依存多体系の物理を「密度の言葉」で語るための憲法のような存在である。本定理により、以下の3点が確立された。

  1. ポテンシャルと密度の間の厳密な数学的リンク。
  2. 作用積分を通じた変分的な枠組みの再定義。
  3. Kohn-Sham形式による、実用的な一粒子計算への道。

現在、我々がGaussian、NWChem、VASP等のソフトで励起状態を計算できるのは、この定理が「密度さえ正しければ、背後にある物理はすべて再現できる」ことを保証してくれているからに他ならない。


参考文献#

  1. Runge, E., & Gross, E. K. U. (1984). Density-Functional Theory for Time-Dependent Systems. Phys. Rev. Lett. 52, 997.
  2. Gross, E. K. U., & Kohn, W. (1985). Time-Dependent Density-Functional Theory. Adv. Quantum Chem. 21, 255.

付録:Runge-Gross定理を読み解くための数理詳解#

本節では、Runge-Gross定理の核心である「ポテンシャルと密度の一対一対応」の証明プロセスを、数理的な観点からさらに細かく分解して解説する。

A. ポテンシャルの時間発展と「最小の次数 kk#

証明の第一歩は、2つの外部ポテンシャル v(r,t)v(\vec{r},t)v(r,t)v'(\vec{r},t) が「異なる」という状況を数学的に定義することである 。

  1. Taylor展開の利用: 時刻 t=t0t=t_0 において、両ポテンシャルを時間の関数として展開する 。 v(r,t)=k=01k!vk(r)(tt0)kv(\vec{r},t) = \sum_{k=0}^{\infty} \frac{1}{k!} v_k(\vec{r}) (t-t_0)^k
  2. 差異の定義: 2つのポテンシャルが「単なる時間依存の定数差 c(t)c(t) 以上に異なる」とは、ある最小の指数 kk (0以上の整数)において、その展開係数の差 wk(r)=ktk[v(r,t)v(r,t)]t=t0w_k(\vec{r}) = \frac{\partial^k}{\partial t^k} [v(\vec{r},t) - v'(\vec{r},t)]_{t=t_0} が「空間的に定数ではない(=場所によって値が違う)」ことを意味する 。
    • 直感的には、ポテンシャルの「形」が最初に変化し始める瞬間の次数 kk を特定していると言える。

B. ハイゼンベルク方程式による電流の変化#

次に、このポテンシャルの差が「電子の流れ(電流密度)」にどう影響するかを追う。

  1. 運動方程式: 量子力学において、演算子の期待値の時間発展はハミルトニアンとの交換子 [O^,H^][\hat{O}, \hat{H}] で決まる 。
  2. 電流密度の加速: 電流密度演算子 j^(r)\hat{j}(\vec{r}) に対してこの関係を適用すると、外部ポテンシャルの勾配(傾き)が電子を加速させる力として現れる 。
  3. 微分の連鎖: kk 回の時間微分を繰り返すことで、時刻 t0t_0 における電流密度の差の時間変化率が導かれる 。 (it)k+1[j(r,t)j(r,t)]t=t0=in(r,t0)wk(r)\left( i \frac{\partial}{\partial t} \right)^{k+1} [\vec{j}(\vec{r},t) - \vec{j}'(\vec{r},t)]_{t=t_0} = i n(\vec{r},t_0) \nabla w_k(\vec{r})
    • ここで、初期密度 n(r,t0)n(\vec{r},t_0) がかかっていることが重要である。電子が存在する場所においてポテンシャルに傾き(wk\nabla w_k)があれば、必ず電流に差が生じることを示している 。

C. 連続の式による密度の変化への変換#

「電流の差」を「密度の差」に結びつけるのが、電荷の保存則である「連続の式」である 。

  1. 保存則の適用: nt=j\frac{\partial n}{\partial t} = -\nabla \cdot \vec{j} (密度の時間変化は、電流の湧き出しの負に等しい)を用いる 。
  2. 密度の高次微分: 電流の差の式をさらに時間微分し、この連続の式を代入すると、密度の k+2k+2 次微分の差が得られる 。 k+2tk+2[n(r,t)n(r,t)]t=t0=[n(r,t0)wk(r)]\frac{\partial^{k+2}}{\partial t^{k+2}} [n(\vec{r},t) - n'(\vec{r},t)]_{t=t_0} = -\nabla \cdot [n(\vec{r},t_0) \nabla w_k(\vec{r})]
    • これにより、「ポテンシャルの差 \rightarrow 電流の差 \rightarrow 密度の差」という因果関係が数学的に繋がる。

D. 背理法による証明の完結(右辺がゼロにならない理由)#

最後に、上式の右辺が「ゼロにならない」ことを証明する。論文では背理法(もしゼロだと仮定すると矛盾が生じることを示す手法)がとられている 。

  1. 仮定: もし [n0wk]=0\nabla \cdot [n_0 \nabla w_k] = 0 だと仮定する。
  2. 積分のトリック: この式に wkw_k を掛け、全空間で積分する 。 d3rwk[n0wk]=0\int d^3r \, w_k \nabla \cdot [n_0 \nabla w_k] = 0
  3. 部分積分(ガウスの定理)の適用: d3rn0(wk)2+(表面項)=0-\int d^3r \, n_0 (\nabla w_k)^2 + \text{(表面項)} = 0
    • 物理的な系では、無限遠で密度 n0n_0 はゼロになるため表面項は消える 。
  4. 矛盾の導出: 残った積分項において、n0n_0 は正の密度であり、(wk)2(\nabla w_k)^2 も二乗なので正またはゼロである。これらを足し合わせてゼロになるには、空間の全域で wk=0\nabla w_k = 0 でなければならない 。
    • しかし、これは「wkw_k が空間的に変化しない(定数である)」ことを意味し、最初の「ポテンシャルが異なる」という定義と矛盾する 。
  5. 結論: したがって、右辺は必ずゼロではなくなり、時刻 t0t_0 直後において密度 nnnn' は必ず異なる値をとることが証明される 。

この厳密な論理構築により、時間依存密度が外部ポテンシャルを(時間のみに依存する定数を除いて)一意に決定することが保証されている。

付録2:Runge-Gross定理の直感的理解 — 「電子の動き」から「力」を逆算する#

数理的な厳密さを維持しつつ、Runge-Gross定理が何を主張しているのかを、日常的なアナロジー(例え話)と物理の基本法則を組み合わせてさらに噛み砕いて解説する。

1. アナロジーで考える:運転手(ポテンシャル)とGPS記録(密度)#

Runge-Gross定理を「走っている車のGPS記録から、運転手の操作を特定できるか?」という問題に例えてみる。

  • 外部ポテンシャル vv(運転手の操作): アクセルやブレーキ、ハンドルの操作 。
  • 電流密度 j\vec{j}(車の速度と向き): ある瞬間の車のスピードと進行方向 。
  • 電子密度 nn(GPSの軌跡): 時間の経過とともに、車が「どこに」「どれくらいの頻度で」存在したかの記録 。

この定理が証明しているのは、**「GPSの記録(電子密度)さえ完璧であれば、運転手がいつ、どこで、どれくらいアクセルを踏んだか(外部ポテンシャル)を完全に逆算できる」**ということである 。


2. 証明の3ステップ:なぜ逆算が可能なのか?#

ポテンシャルの違いが密度の違いとして現れるまでの「ドミノ倒し」を、数理物理学の視点で分解する。

ステップ1:ポテンシャルの差は「加速」の差になる#

まず、2つの異なるポテンシャル(運転操作)があると仮定する 。 量子力学における「ハイゼンベルクの運動方程式」によれば、ポテンシャル vv に「傾き(勾配 v\nabla v)」があると、それが電子を動かす「力」となる 。 もし2人の運転手が異なる操作をしたなら、その瞬間に電子が受ける**「加速(電流密度の時間微分)」**に必ず違いが生じる 。

数学的ポイント: 電流の変化率 jt\frac{\partial \vec{j}}{\partial t} は、その場所の密度 nn とポテンシャルの傾き v\nabla v の掛け算に比例する 。 つまり、「力が違えば、流れの変化の仕方が変わる」という極めて自然な物理法則に基づいている 。

ステップ2:加速の差は「流れ」の差を生む#

加速に差があれば、わずかな時間が経過した後、電子の**「流れ(電流密度 j\vec{j})」**そのものに違いが出てくる 。 これは、アクセルの踏み込み方が違えば、数秒後には車の速度が変わっているのと同じである。

ステップ3:流れの差は「分布」の差として蓄積する#

ここで**「連続の式」が登場する。これは「電子の数は勝手に増えたり減ったりしない」という保存則である 。 ある場所の流れ(電流)に差があれば、そこへ流れ込む電子の量が変わるため、結果としてその場所の「電子のたまり具合(密度 nn)」**が変化する 。

数学的ポイント: 密度の変化率 nt\frac{\partial n}{\partial t} は、電流の「湧き出し(j\nabla \cdot \vec{j})」で決まる 。 結局、「加速が違う」\rightarrow「流れが違う」\rightarrow「密度のたまり方が違う」という連鎖により、ポテンシャルの差が必ず密度の差として記録されることになる 。


3. なぜ「停留点」を考えるのか?#

基底状態のDFTでは「エネルギーが一番低い状態を探す」という明確なゴールがあった 。しかし、時間とともに変化する系では、エネルギーは一定ではない 。

そこで、RungeとGrossは**「作用積分 AAという量を導入した 。 これは、いわば「物理的に正しい経路かどうかのスコア」である 。 電子は、このスコアが「ちょうど変化しなくなる(停留する)」ような経路を通って時間発展する 。 この「最小作用の原理」**(正確には定常作用の原理)を密度の言葉で書き換えることで、エネルギー最小化を使わずに時間発展を記述する「時間依存Kohn-Sham方程式」が導かれたのである。


4. この定理がもたらした「自由」#

Runge-Gross定理以前は、時間とともに変化する複雑な多電子系を解くには、膨大な情報量を持つ「波動関数」を直接追いかけるしかなかった 。 しかし、この定理が「密度さえ見れば十分だ」と保証したことで、我々は以下の恩恵を得ている 。

  • 情報の圧縮: 3N3N 次元の波動関数の代わりに、たった3次元の電子密度 n(r,t)n(\vec{r},t) に注目すれば良くなった 。
  • 理論の統一: 外部ポテンシャル vv が何であれ(光、電場、磁場など)、同じ形式の「普遍的な汎関数」を用いて計算できる道が開かれた 。
時間依存密度汎関数法の厳密な基礎:Runge-Gross定理の詳細証明と作用汎関数の論理構造
https://ss0832.github.io/posts/20260113_compchem_tddft_1/
Author
ss0832
Published at
2026-01-13
License
CC BY-NC-SA 4.0

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