最終更新日:2026-01-15
※本記事は、学術論文(Angew. Chem. Int. Ed. 2024, 63, e202407979)に基づき、生成AIによって自動生成された解説記事です。
1. 結論:スズ試薬フリーなラジカル的イプソ置換の実現
マンチェスター大学のSephtonおよびGreaneyら(2024年)は、可視光レドックス触媒とハロゲン原子移動(XAT)プロセスを使用することで、有毒なスズ試薬を用いずに中性条件下で分子内ビアリール骨格を構築する手法を確立した。本研究の主要な成果は以下の通りである。
- スズヒドリドに依存しない代替ラジカル発生法の確立: 従来、Smiles-Truce転位(STR)型のラジカル反応にはトリブチルスズヒドリド等の化学量論的ラジカル開始剤が必要であったが、本手法では第三級アミン(TMEDA)をXAT剤として用いることで、可視光駆動型の環境調和的な反応系を実現した。
- 反応経路の完全制御: アミドリンカー上のヨードアレーン側にオルソ置換基を導入するという単純かつ強力な立体制御により、競合する「オルソ付加(閉環)」を物理的に遮断し、目的とする「イプソ置換(転位)」を選択的に進行させることに成功した。
- 高い化学的直交性: 本手法は、鈴木-宮浦カップリング等の遷移金属触媒反応や反応に対して直交性を示す。すなわち、分子内に共存する臭素(Br)やフッ素(F)などの反応性官能基を損なうことなく、ヨウ素(I)のみを選択的に活性化して骨格形成が可能である。
2. 理論的背景:ラジカル的ビアリール合成における「二つの壁」
ビアリール骨格は医薬品や天然物に頻出する重要構造であり、その合成法としてはパラジウム触媒を用いたクロスカップリング(鈴木-宮浦反応など)が主流である。一方で、ラジカル反応を用いたアプローチ(Smiles-Truce転位など)は、立体障害に強く保護基が不要であるという独自の利点を持つが、実用化には二つの大きな課題が存在した。
2.1 毒性と条件の厳しさ
古典的なラジカル的イプソ置換(Smiles転位)では、炭素-ハロゲン結合を切断してラジカルを発生させるために、**トリブチルスズヒドリド()**などの有毒な試薬を化学量論量必要とした。これは医薬品合成プロセスにおいて大きな欠点となる。
2.2 競合反応:オルソ付加 vs イプソ置換
より本質的な課題は反応の選択性にある。発生したアリールラジカルは、目的とするイプソ位(置換基の根元)への攻撃よりも、空間的に近く立体障害の少ないオルソ位への付加を優先しやすい。その結果、目的のビアリール(転位生成物)ではなく、フェナントリドンなどの縮環化合物が主生成物となってしまうケースが多発していた(下図概念参照)。
- オルソ付加(望ましくない経路): ラジカルが隣接位を攻撃 → 縮環構造(Phenanthridone等)
- イプソ置換(目的の経路): ラジカルが連結点を攻撃 → スピロ中間体 → 転位 → ビアリール
3. 反応設計とメカニズム
Sephtonらは、XATによる温和なラジカル発生と立体障害による経路制御を組み合わせることで、上記の問題を一挙に解決した。
3.1 XAT(ハロゲン原子移動)触媒戦略
近年Leonoriらによって開拓されたXATは、アミノアルキルラジカルがハロゲン原子を引き抜く強力な手法である。研究チームはこれをビアリール合成に応用した。
- 触媒: イリジウム光触媒()または有機光触媒(4CzIPN)。
- XAT剤: TMEDA(テトラメチルエチレンジアミン)。安価な第三級アミンであり、光酸化を受けて-アミノラジカルとなり、これがヨウ素を引き抜く。
3.2 立体制御:オルソ置換基による「壁」
反応設計の白眉は、ヨードアレーン側のオルソ位に置換基(エステル、ハロゲン等)を配置した点にある。この置換基が立体的な「壁」となり、望ましくないオルソ付加経路を物理的に阻害する。その結果、ラジカルはイプソ位を攻撃せざるを得なくなり、Smiles-Truce転位が優先的に進行する。
3.3 推定反応機構
論文中で提唱され、実験的に支持された機構は以下の通りである。
- 光励起とアミン酸化: 青色LED照射下、励起されたがTMEDAを一電子酸化し、-アミノラジカルが発生する。Stern-Volmerプロットにより、TMEDAが基質よりも優先的に励起触媒を消光することが確認されている。
- XATによるラジカル発生: -アミノラジカルがヨードアニリド(基質)からヨウ素原子を引き抜き、アリールラジカルを生成する。
- 5-exo-trig環化(Smiles転位): アリールラジカルはイプソ位を攻撃し、スピロシクロヘキサジエニルラジカル中間体(B)を形成する。
- C-N結合切断と芳香族化: 続いてC-N結合が開裂してアミジルラジカルとなり、系内で還元・プロトン化を受けて最終生成物のビアリールアミド(2)を与える。
4. 実験的検証と結果の解釈
4.1 最適条件と収率
モデル基質(ヨードベンズアニリド誘導体)を用いた検討の結果、以下の条件が最適化された。
- 触媒: 1 mol% Ir触媒。
- XAT剤: TMEDA(過剰量;最適化条件の詳細はSupporting Information参照)
- 溶媒: メタノール(MeOH)。
- 結果: モデル基質において収率80%(単離収率)を達成。また、有機光触媒(4CzIPN)を用いても収率68%で進行し、完全メタルフリー化への可能性も示された。
4.2 基質適用範囲(Scope)
本手法は極めて広範な基質に適用可能である。
- 移動するアレーン(Migrating Arene): 電子求引基(エステル、CN)、電子供与基(OMe、SMe)、さらにはナフタレン、ピリジン、チオフェンなどのヘテロ環も問題なく転位・結合できる。
- 受容側アレーン(Iodoarene): オルソ位だけでなく、メタ・パラ位にCl、Br、CF3などの置換基があっても反応は阻害されない。
4.3 合成化学的直交性(Orthogonality)の証明
特筆すべきは、他の合成手法との併用可能性である。
- 対 パラジウム触媒: 分子内に「臭素(Br)」と「ヨウ素(I)」が共存する場合、本手法はIのみを選択的に反応させる。残ったBr基を用いて、その後に鈴木・宮浦カップリングでさらに分子を連結できる(化合物3bの合成例)。
- 対 反応: 「フッ素(F)」を持つピリジン環においても、F基は保持される。生成物に対して求核置換反応を行うことで、複雑な多官能基化分子へ誘導できる(化合物3aの合成例)。
5. 限界と実務的注意点
本手法を実験室で再現・適用する際には、以下の点に留意する必要がある。
- オルソ置換基の必要性: 本反応が高収率でビアリールを与える主因は「オルソ置換基による立体制御」にある。したがって、原則としてヨードアレーン側のオルソ位に置換基が必要である。ただし、リンカーをアミドから「スルホンアミド(挿入型)」に伸長した基質(4b)では、オルソ置換基なしでもビアリール化が進行することが報告されている。
- 試薬量と精製: TMEDAを5当量と過剰に用いるため、反応後の除去操作が必要である。
- スケールアップ: 論文中では1 mmolスケールへの拡張が報告され、良好な収率が得られている(具体的数値はSupporting Information参照)。光反応特有の光透過性の制約があるため、これ以上のスケールではフローリアクター等の検討が推奨される。
6. 参考文献
-
[原典] Sephton, T.; Large, J. M.; Natrajan, L. S.; Butterworth, S.; Greaney, M. F. Photoredox Catalysis: XAT-Catalysis for Intramolecular Biaryl Synthesis. Angew. Chem. Int. Ed. 2024, 63, e202407979.
-
[XATの基礎] Juliá, F.; Constantin, T.; Leonori, D. Chem. Rev. 2022, 122, 2292-2352.
-
[Smiles転位の先行研究] Holden, C. M.; Sohel, S. M. A.; Greaney, M. F. Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 2450-2453.