最終更新:2026-01-16
概要
同義反復(どうぎはんぷく、Tautology)は、ある命題の述語が主語の定義を繰り返しているに過ぎず、実質的な情報量がゼロである論理構造を指す。形式的には次のように表される。
A = A(AはAである)
P ∨ ¬P(Pである、もしくはPでない)
この推論パターンは論理的には常に「真(True)」であるが、現実世界に関する新たな知見や情報を何ひとつ提供しないため、議論や説明においては無意味(ナンセンス)と見なされる。これは、結論が前提の中にすでに完全な形で含まれているためである。
例と無意味である理由
例1:独身男性の定義
彼は独身である。
なぜなら、彼は結婚していない男性だからだ。
無意味である理由:「独身」という言葉の定義自体が「結婚していない」状態を指すため、これは「結婚していない男性は結婚していない男性である」と言っているに過ぎない。この文章から、彼の人柄や背景に関する情報は一切得られない。
例2:右側の位置関係
右にある物体は、右側に存在する。
したがって、それは左側にはない。
無意味である理由:右にあるものが右にあるのは、空間的な定義上、必然である。「右」という概念の中に「左ではない」という意味が含まれているため、この主張は同語反復であり、物体の具体的な位置座標や性質については何も説明していない。
例3:勝敗の行方
この試合に勝てば、我々は勝利するだろう。
負けなければ、敗北することはない。
無意味である理由:「勝つ」と「勝利する」は同義語である。AならばAであるという恒真命題(常に正しい命題)を述べているだけで、勝利するための戦略や確率は一切示されていない。
例4:可視性と照明
部屋が明るいのは、光が充満しているからだ。
もし暗闇であれば、それは暗い状態であることを意味する。
無意味である理由:「明るい」という現象の説明として「光がある」を用いるのは、現象を別の言葉で言い換えただけである。物理的な因果関係(例:スイッチを入れたから、太陽が昇ったから)が欠落しており、状況の描写としては正しいが、説明としては機能していない。
例5:絶対的な事実
私が発言していることは、私が口に出している言葉である。
それは事実である以上、嘘ではない事実である。
無意味である理由:発言を発言と定義し、事実を事実と再確認しているだけの閉じた論理回路である。この文章は自己言及的であり、外部の検証可能なデータや根拠と接続されていないため、説得力を持たない。
対処法
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情報の非対称性を確保する Aを説明するためにAを用いるのではなく、Aを構成する要素Bや、Aを引き起こした原因Cを提示する(合成的判断)。
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定義と主張を区別する 「独身とは結婚していないことだ(定義)」と「彼は独身である(事実の主張)」を混同せず、文脈に応じて使い分ける。
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グライスの協調の原理(量の公理)を守る 会話においては「必要とされるだけの情報を提供する」というルールを意識する。分かりきったことを繰り返すのは、この公理への違反である。
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循環論法を避ける 結論を前提として使用しない。「Aは正しい、なぜならAは間違っていないからだ」ではなく、客観的な証拠に基づいて論証を行う。
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語彙の多様性に惑わされない 異なる単語(例:「勝利」と「勝つ」、「逝去」と「死」)が使われていても、指し示している対象が同一であれば、それは同義反復であると見抜く。
同義反復の罠を避けるためには、言葉の定義を弄ぶのではなく、実質的な意味や因果関係を語る姿勢が重要である。そうしなければ、語っているようで何も語っていない状態に陥るだけである。